黒神 The Animation/監督:小林 常夫
「黒神」のアニメ化にあたっての経緯や制作前の印象を教えてください。
小林
最初にエモーションの湯川PDからお話をいただきました。
自分が今まで携わってきたジャンルとは違い、アクションものの作品なので、「ドッペルライナーシステム」をどうするかなどを含め、映像化が難しそうな作品だな、という印象を持ちました。
それは物語的に、気にしなければならない部分が多いという事でしょうか?
小林
原作漫画では成立しているのですが、ドラマ的な部分で、よりアニメーションとして面白く見せていくのは工夫が必要だと感じました。
今まで携わっていた作品とは雰囲気が違うというお話がありましたが、違うジャンルにチャレンジしてみようという考えがあったのでしょうか?
小林
最近は、これまで携わってきた作品の経緯で、同じ様な傾向の作品のオファーをいただく事が多いのですが、今回は湯川PDから「小林さんの作風とは違うので、『黒神』は大変だと思いますがお願いします」とお話をいただき、あえて違うことにチャレンジしてみようと思いました。
また、サンライズさんと仕事をしたことがありませんでしたので、一度監督をしてみたかったのも理由のひとつです。
映像化は難しいというお話がありましたが、同時に内容的に面白いと思った所はどこですか?
小林
ドッペルゲンガーはよく使われる題材ですが、それをアレンジした『ドッペルライナーシステム』という掟を、アニメーションではより深く物語の縦軸として描ければ面白いと思いました。その為、原作者の林先生、朴先生には映像化におけるご理解もいただいて、主人公のキャラクターの方向性を変えさせていただきました。
ルートとサブの設定も原作とアニメーションで多少定義づけを変更しています。
生まれながらにして定められた運命という部分は、格差社会とリンクしていて、現代的なテーマでもあります。
私は『黒神』をエンターテインメント作品として受け取っていますが、慶太によりカルマを持たせることによって、コンテンポラリーなテーマを盛り込めるのではないかというところに面白みを感じました。
水没都市の設定というのは、監督のアイディアだとお聞きしました。
小林
はい。舞台は数年先の設定ではありますが、現代と変わらぬ普通の日常から物語を始めて、その後に近未来の水没都市を見せる事により、現代人が抱える漠然とした不安感のようなものをビジュアルとして見せたかったからです。
あと、主人公がどこに住んでいるかなど、細かい設定を作っていく上で、東京の山の手から下町まで様々な場所のビジュアルを持ってきて、それらを再構築して画づくりしたら面白いだろうな、という考えがありました。
具体的には、神楽坂などの坂道、芝浦や湾岸方面の運河があるような所をモチーフにして画づくりしています。
そのロケ中に浮かんだイメージが、慶太のメタファー的・心象的な不安感の象徴となる水没都市なのです。
ロケハンというお話がありましたが、フィルムを見てもすごく背景描写がリアルで、レイアウトが大変そうだと感じましたが。
小林
コンテを描いた自分の責任なのですが、いくつかのカットは劇場並みのレイアウトを要求してしまいました。
今までの現場ですと、同じスタッフとの積み重ねがありますので、僕がどういうレイアウトを求めているか分かっていたと思うのですが、今回は新しい現場でしたので、スタッフの皆さんは大変だったと思います。
でも、キャラクターデザインの西村さんが、亜細亜堂というスタジオの同期で、気心も知れていて、しっかり修正をしてくれたので心強かったです。
見慣れた現代の街をリアルに見せるのは難しいのですが、美術スタッフがかなり頑張ってくれた事にも感謝しています。
小林監督が以前監督をされた『英國戀物語エマ』も見ると参考になりますが、映像として街の空間をリアルに描こうという志向性がおありなのでしょうか?
小林
自分の中では特別なことではないと思っています。
自分が子供の時に好きだった『ど根性ガエル』もギャグ物なのに街の描写はリアルでしたから。師匠の芝山努さんや、故市川準監督の影響かもしれません。
ただ今回は、せっかく描いていただいた背景を、物語の展開上、何度も見せられないのが残念です。
本来は定住型にして、一生懸命描いていただいた美術もバンクで使い回せるのが一番なんですけれども(笑)。
「黒神」はアクションも見所の一つだと思いますが、監督の過去の作品ではアクションものというのはあまり見られませんでしたが、そのあたりどのようにお考えでしょうか?
小林
単なる美少女アクションにならないように、リアルなバトルの描写をしようと心掛けました。
また、湯川PDからのコンセプトとして、音楽が印象に残るようなかっこいいアクションシーンにしたいというオーダーがありました。
作画では、元神霊という特殊な存在の、クロのバトルのエフェクトをかっこ良くしたり、撮影の特殊効果が映えるような夜のバトルシーンでは、色合いなども綺麗に見せるように工夫したいと思っています。
第1話ですとネオンが印象的でしたが、アクションシーンで活かしたいというものがあったのでしょうか?
小林
ネオン看板をたくさん作るのは大変でしたが、バトルフィールドに印象的なビジュアルが欲しかったので、頑張って描き込みました。 ネオンの光り方も細かく指示しています。撮影スタッフには大変な思いをさせましたが、そのお陰でイメージ通りの画面に仕上がりました。
監督から見て、アニメの慶太というのはどういう存在だと思っていますか?カルマを背負わせてというお話がありましたがそのあたりについて教えてください。
小林
慶太はすごく繊細なキャラクターとして描いています。
原作では成人しているゲームクリエーターで、茜さんにもモテモテで、私生活での悩みもなく、彼の抱えているカルマは母親が亡くなったという所だけになります。
スリラーの物語としては、こういった設定の人物がトラブルに巻き込まれるのは正しい方法だと思いますが、アニメーションの場合は、誰もが持っているペルソナや心の闇を慶太に持たせました。
過去に母親や親友を亡くしたゆえに厭世的で諦観している慶太が、『ドッペルライナーシステム』によって、否応なく運命に向かい合わなくてはならなくなるというドラマにしたかったからです。
その慶太の対立軸として、運命を自分で変えてやるという強い意志を持ったオリジナルキャラクター・蔵木を設定しました。
クロと慶太のバディ物として、二人の物語の両輪をしっかり作らないと、ドラマが弱くなるので、慶太により深いカルマを持たせるという意味合いで、キャラクターを変えさせていただきました。
クロの方は、原作と同じく黎真を対立軸としてベースにしているということですね。
小林
そうです。
クロと茜に関して、アニメーションでキャラクター設定の変更は特にありません。
ただ、物語がシリアスな方向に行くので、原作のコミカルな部分をあまり盛り込めなくて、原作ファンの方には申し訳なく思っています。
なるべくコンテチェックでシナリオに無いものを挟み、クロや茜さんのコミカルな面を立たせるように努力しています。
最後にファンの方々にメッセージをお願いします。
小林
遂に放送が始まり、脚本もクライマックスへ向けて鋭意執筆中です。
『黒神 The Animation』全24話、最後まで楽しんでいただけると幸いです。
© 林達永・朴晟佑/スクウェアエニックス/サンライズ・バンダイビジュアル